築60年の建物で屋上防水|入居者への音に配慮し、塩ビシートからウレタン防水へ
屋上防水は、「塩ビシートとウレタンのどちらが優れているか」だけでは決められません。既存防水の傷み方、下地に水が回っているか、建物を使っている方への影響、そして将来のメンテナンスまで見て判断する必要があります。
今回ご紹介するのは、親御さんから息子さんへ引き継がれた築60年の建物です。現地では塩ビシートの膨れや穴が見つかり、内部まで水が回っていたため、表面だけの補修ではなく既存シートを全面撤去しました。また、入居者の方に穴開け音が伝わることをオーナー様が心配されたため、塩ビシートの機械固定工法ではなく、ウレタン防水を選んでいます。
親世代が所有してきた建物を引き継ぎ、「過去にどんな修繕をしたのか分からない」「どこまで直せばよいのか判断できない」と悩むオーナー様もいらっしゃいます。そこで今回は、工法を決めた理由から、完成後には見えなくなる下地処理、今後のメンテナンスまで、実際の工程に沿ってご紹介します。
築60年の屋上を調査—入居者への音に配慮した工法選び
ご相談のきっかけは、建物の代替わりでした。もともと親御さんが所有していた建物を息子さんが引き継いだタイミングで、屋上防水の見積もりをご依頼いただきました。
既存の屋上は、床面にあたる平場も、周囲の垂直部分である立ち上がりも、塩ビシートを下地へ接着する密着工法で施工されていました。オーナー様の当初のご希望は、塩ビシートまたはウレタン防水で改修すること。そこで、まずは両方の工法で見積もりを作成し、違いをご説明しました。


建物を引き継いだときに大切なのは、以前と同じ工法をそのまま繰り返すことではありません。現在の劣化状況と建物の使われ方を調べ、今の条件に合う方法を選び直すことです。
この屋上を塩ビシートで改修する場合は、固定金具やビスを使う機械固定工法になる想定でした。下地へ固定するための穴開け作業が伴うため、施工中の音や振動が建物内へ伝わる可能性があります。
オーナー様が特に心配されたのは、入居者の方への影響でした。防水性能や費用だけでなく、工事中も生活や仕事が続くことまで考えた結果、今回は固定金具を取り付けるための連続した穴開け工程を避けられるウレタン防水を採用しました。
どの建物でもウレタンが正解という意味ではありません。塩ビシートにもウレタンにも、それぞれに適した下地と納まりがあります。今回の判断のポイントは、「この建物で施工する場合」と「入居者がいる状態」を合わせて考えたことでした。収益物件の修繕では、工法を決める段階から入居者への説明や工程の周知まで見通しておくことが大切です。
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テープ補修では追いつかず、既存シートを全面撤去
工事前の塩ビシートには、帯状に長く伸びたような膨れや突っ張りが複数見られました。現場担当者は、経年劣化による症状と判断しています。さらに、赤いレンガが置かれていた付近ではシートに穴が開いていました。
オーナー様はテープを貼り、急場をしのいでいました。目の前の雨を防ぐための応急処置としては自然な判断ですが、確認した時点ではシートの内側まで水が回っていました。こうなると、穴の上だけをふさいでも、内部に入り込んだ水や傷んだ接着面までは直せません。
そこで今回は、平場と立ち上がりの既存塩ビシートをすべて撤去することにしました。撤去を伴う改修は工程も費用も増えます。しかし、残せない防水層の上へ新しい材料を重ねればよいわけではありません。「どこまで既存層を生かせるか」は、表面の見た目ではなく、膨れ、穴、接着状態、内部への水の回り方を確認して決めます。
密着している塩ビシートは、そのまま引っ張ると広い範囲が一緒に動いて扱いにくくなります。そのため、もとのシート幅を目安にカッターで切り分け、順に引きはがしました。


防水の持ちを左右する、完成後には見えない下地処理
シートを取っても、接着に使われたボンドは下地に残ります。残ったボンドや突起物は新しい防水層の不具合につながるおそれがあるため、スクレーパーで丁寧に除去しました。


屋上には、新築時の保護コンクリートに設けられた伸縮目地もあります。既存シートの撤去に合わせて、以前のバックアップ材を取り除き、新たにシーリングを施工して下地を作り直しました。
その後、セメント系の下地調整材を立ち上がりと平場へ塗布しました。この現場で使用した材料は仮防水の役割も担うため、シートを撤去した範囲は、できる限りその日のうちに仮防水まで進めます。屋上をむき出しにしたまま夜を越すと、突然の雨だけでなく夜露の影響も受けるからです。なお、すべての下地調整材に仮防水性能があるわけではないため、実際の施工は採用材料の仕様に従います。


翌日には、下地調整材が固まったあとに突起をケレンし、平滑に整えました。ケレンとは、工具を使って不要な付着物や突起を取り除く作業のことです。


防水工事は、完成すると下地の多くが見えなくなります。だからこそ今回も、仕上がりの色や艶だけでは分からない、撤去・清掃・目地処理・平滑化といった工程を大切にして作業しました。
改修ドレン・通気シート・脱気筒で、水の出口と湿気に対応
下地を整えたあとは、雨水の出口となる横引きの改修ドレンを設置しました。ドレンの内側へ入る蛇腹状のホースが途中で詰まらず、奥まで確実に差し込めているかを施工中に確認しています。完成後には見えにくくなる部分だからこそ、この時点での確認が欠かせません。


続いてプライマーを塗り、平場へ通気シートを張りました。シート同士の継ぎ目には専用のジョイントテープを使用し、改修ドレンとの取り合いは、今回採用した仕様に従ってメッシュで補強しています。補強は「何となく強くしておく」作業ではなく、異なる部材が接する部分を仕様どおりに納めるための工程です。


脱気筒は、通気シートの下へ入った湿気を外へ逃がすための部材です。本現場では、水上側にあたる屋上の高い側で、日当たりがよく、できるだけ伸縮目地が通る位置を候補にしました。ただし、人が歩く邪魔になっては困るため、実際の動線も見ながら位置を調整しています。位置を決めたあとは穴を開けてビスで固定し、本体まわりをメッシュで補強しました。


ドレンや脱気筒の納まりは、採用する防水システムや現場条件によって変わります。位置や補強方法を一律に決めず、その建物とメーカー仕様の両方を確認することが重要です。
関連記事(別の施工事例):通気シート・ドレン補強・脱気筒の施工
立ち上がりと平場へウレタンを2層施工し、トップコートで保護
ウレタン防水は、まず立ち上がり、その後に平場の順で1層目を施工しました。通気シートを張った状態で一晩空ける場合は、雨や夜露が継ぎ目から入らないよう、ジョイント部分にもウレタンを塗って雨仕舞いをします。同じ日に平場全体へウレタンを流せる場合は、そのまま全体を施工します。


2層目も立ち上がりから平場へ進め、平場では先端がくし状になったレーキを使用しました。見た目だけで厚く見せるのではなく、決められた塗布量を確保するためです。


仕上げにはトップコートを塗布しました。人が歩く屋上のため、専用の骨材を加えて滑りにくくしています。ただし、防滑仕上げでも雨で表面に水があれば滑ることはあるため、歩行時の注意は必要です。


オーナー様との完工検査と、5年後を見据えたメンテナンス
最後はオーナー様にも立ち会っていただき、施工箇所を一緒に確認して工事完了となりました。


トップコートは防水層そのものではなく、ウレタンの膜を紫外線や摩耗から守る保護層です。現場担当者の説明では、今回の仕様は5年の保証が付き、5年以内にトップコートを塗り替えることで、さらに5年間の保証延長を受けられる条件でした。これはすべてのウレタン防水に共通する制度ではありません。採用製品、施工仕様、点検状況などによって条件が異なるため、ご契約時には保証書で塗り替え期限や延長手続きをご確認ください。
防水層が健全なうちなら、状態を確認したうえで塗り重ねやトップコートの更新を提案できる可能性があります。しかし、膨れや浸水が進んでしまうと、今回のように全面撤去からやり直す大がかりな工事になることがあります。
親御さんから建物を引き継いだものの修繕履歴が分からない場合は、雨漏りが起きるまで待たず、まず屋上の防水種類、膨れや穴、ドレンまわり、立ち上がりの状態を確認することをおすすめします。建物を次の10年へつなぐ第一歩は、今の状態を正しく知り、入居者への影響と将来の維持費まで含めて改修方法を選ぶことです。
